オイルは実に因果なもので、見ただけでは何もわかりません。ちょうどお酒みたいなものです。高級なお酒もうまいお酒もそうでないお酒も外見上、区別はつきませんよね。酔ってしまえばみな同じともいいますが、お酒の場合、味で区別はつきます。けれどオイルの場合そうはいきません。飲んでみるわけにもいきません。


オイルの場合、見た目で全くわからないものに、ベースオイルの違いがあります。よく言われている鉱物油とか化学合成油と言うのがそうです。鉱物油とは原油を蒸留、精製して作るもので、安価に安定した品質で大量に供給可能であることから、これは昔から良く使われてきました。産地の原油の質によっても、ベースオイルの質が左右されるといったこともあったといわれ、昔はアメリカ・ペンシルバニア産の原油から作られたベースオイルが、一番オイルに適していると重宝されたそうです。蝋(ろう)分が少ないといった特徴が原油にあり、できたベースオイルも温度変化に対して粘度変化がそもそも少ないといったことが理由のようです。蝋は常温では固体で、温めるとすぐに軟らかく液状になる、つまり変化が激しいのです。今は技術が進歩し、鉱物油も飛躍的に高性能になり、また化学合成油という全く違った製法による高性能ベースオイルも確立されたので、原油の産地をいうこと自体が無意味になってきています。


化学合成油は第二次世界大戦中にドイツとアメリカで開発されたもので、航空機エンジンのためといわれています。当時の飛行機のエンジンはクルマと変わらないレシプロエンジンで、しかもより高々度を飛行するために、スーパーチャージャーやターボチャージャーが研究されていました。上空に行けば行くほど、空気が薄くなり、いわゆるNAエンジンではパワーダウンしてしまうわけです。そこで、より多くの空気をシリンダーに送り込むために、過給してやろうとなるわけですが、ターボチャージャーは潤滑油に、特に熱の面で厳しく、それまでの鉱物油や植物油では対応できませんでした。化学合成油は、そんな背景の中、必要とされ、開発されました。ターボチャージャーつきエンジンを搭載し、“超空の要塞”といわれたボーイングB29が高度1万メートル近くを飛行し、日本の迎撃戦闘機を寄せ付けなかったのにも、化学合成油があったればこそだったのです。

いま我々が高性能な化学合成油を自家用で使用できるのは、まさに平和のおかげです。飲んで味を確かめることはできませんが。



日本クラシックカー会報誌「オイル・色々ばなし−31」より

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